勉強の方法を教える活動

効果の出ない勉強方法

 授業をしていると、まだまだ「やったつもり」にしかなっていないような勉強をしている生徒をよく目にします。例えば、漢字や英単語の暗記テストを行うと、教師が教室に入って問題用紙を配る直前までテキストを見ている生徒がたくさんいます。教師がわざと配るのを遅くすると「早く早く!忘れちゃう!」と言って焦っているのです。そんな数分間しか続かないような覚え方では、その小テストは何とかしのいだとしても、次の日には大半を忘れてしまいます。でも生徒たちは小テストさえ合格ならば居残りやペナルティーなどがないので満足なのでしょう。
 こうして、小テストはできるのに大きな総合テストになると点が取れない、という状況が生まれるのです。もちろん、最初から全く勉強しない生徒よりはずっといいのですが、テストの成績という点では、両者の間にさほど差が生まれないという悲しい結果になってしまいます。

知識を教えるだけでは不十分

 このような生徒もいる中、どうしたら本当に成績を上げられるか、我々講師陣は日々熟慮しています。分かりやすく教えることは、さほど難しいことではありません。生徒に「分かった」と思わせることも容易なことです。しかし、自分の頭で考える力が身に付かないと、教えた問題しか解けない、少しでも形を変えるとできなくなる、時間がたつと忘れてしまう、という状況になりかねません。
 究極的には、問題の答え(知識)より、勉強のやり方(方法)を教えてあげないと、本当の学力にはつながらないのだと思います。

実際の取り組み

 では、当塾における取り組みを以下にいくつかご紹介します。

①リピートブック(算数・数学)
 今習っている単元ではなく、過去にすでに終わっている範囲の問題を宿題としてやらせます。授業で習っていた時はできていても、数ヶ月たつと解けなくなっていることがあるので、それを意識させ、再び理解するまでやらせます。
 「少し忘れかけた頃に再確認すると、定着がより強固になる」ということを分からせる狙いがあります。

②テスト形式の英単語・漢字練習プリント
 次の暗記テストの範囲の練習プリントですが、ただ何回も書くのではなく、いきなりテストの形式(複数回分)になっています。まずは何も見ずにテストとしてやってみて、できないところを勉強してから、再び何も見ないでテストをします。これを繰り返して暗記していくのです。
 「覚えたかどうかを、テストすることによって確認することが大切」だということを認識させる狙いがあります。

③早めの試験範囲学習と提出物管理(中学生)
 定期試験の成績が悪かった生徒には、すぐ次の試験範囲の勉強を始めます。この時、こちらから一方的に課題をやらせるのではなく、試験範囲や出題傾向などを本人と相談しながら、次にやるべき課題を決めていきます。これは、当事者意識と目的意識を持たせるためです。
 また、試験直前になって提出物が終わらず、試験勉強まで手が回らない生徒が多くいるので、そのような生徒には事前に数ページずつ進めさせ、進捗状況を毎回チェックします。
 「計画的に取り組むことで時間に余裕ができて成績が上がる」ということを実感してもらう狙いがあります。

「方法」が分かれば何でも応用できる

 今やっている勉強は大人になったら全然使わない、とよく言われますが、やはりこれは間違っています。もちろん、数学の連立方程式や理科の元素記号などは、(教師や学者は別として)生活の中で使うことはありません。しかし、勉強の「方法」を学ぶことは必要なのです。それは、会社員が「今月中に契約を取るにはどうしたらいいか」と考えるのと、学生が「次の期末試験で内申点を上げるにはどうしたらいいか」と悩むのは、決まった期間で一定の成果を出す方法を考えるという点で本質的に同じだからです。
 国文学者の林望さんは「私は国文学者だから、知識としては国文学に偏っていて、他のことはあまり知らない。だけれども、1つの分野を極めることによって、いろいろなジャンルの学問に共通する普遍的方法が身についている。だから以前、イギリスの風景画についてエッセイを書くなんていう、全くの専門外の仕事を依頼された時も、どういう順序で勉強していけばいいかは大体分かって、自分なりに意見を持つこともできた」と述べています。
 生徒たちがこれから大人になる上で、将来必要になる知識を全て事前に勉強しておくことは不可能です。仕事をしていれば、新しい知識を吸収しないといけない場面がたくさん出てきます。学生時代と内容は違えど、勉強するという行為は大人になってからも必要であり、今はまさにそのための「方法」を学んでいるのだと言えるでしょう。